第七期 第4回京都クオリア塾 令和3年9月18日
「工芸史からみる日本の世界戦略とソフトパワー」
前﨑 信也(京都女子大学生活造形科准教授)
9月18日(土)
美術史、近代産業史が専門の前崎准教授、日本の文化は何のため誰のために存在するか、と問いかけながら、福沢諭吉の功績についてこう話されます。1862年欧州使節団の一員として参加した福沢は、第2回ロンドン万博で西洋近代文明に衝撃を受けるとともに、文化外交の重要性を認識、その推進に務めた。イギリスの教科書で日本が初めて出てくるのは何と日露戦争の後、ヨーロッパにとって日本は東の端の国であった。その日本の美術や工芸がジャポニズムとして19世紀のヨーロッパで大きな影響を与えたのはご存じの通りだが、東の小国日本の認知度を高めるため当時の国家予算の半分を投じて万博に参加するなど、外国への積極的な文化発信が開国後の日本をつくったと語ります。
一方国内でも内国勧業博覧会を通じて殖産興業が進められますが、1890年の第3回は
デフレの影響を受けて出展作品の半分が売れ残りました。東京遷都で疲弊した京都も京都人自ら産業振興に向けて動きますが思うように効果を出せず、舎密局、京都陶磁器試験所などを開設し、京都人のプライドを捨てて外国人や東京から研究者を招き科学の知見を導入した。京都・岡崎で開催した第4回では、京都の文化や新産業を紹介し、京都の都市としての魅力を再発見する場となった。
と前崎准教授は近代を振り返りながら、例えば京焼といっても素材の土も釉薬も京都産ではない。ハイブリッドの作品をつくってブランド化するとか、工芸という言葉からの卒業を提案しながら、技術や伝統に縛られないでアート感覚を持った工芸家が今こそ求められている、として、アーティストもアスリート、と強調します。そしてコロナを機にカタチあるものではなくアート分野もデジタルへのシフトがより進むだろうと、話されました。
緊急事態宣言下での第4回はオンラインとのハイブリッドで開催となりましたが、これからの社会を考えるにはアートもビジネスも一緒で、品質に加えモノにストーリー性を加えた戦略の大切さ等について気づかされる研修となりました。